2004年12月4日、新宿のシアターモリエールの客席で、イラストレーター・女優・ジャズシンガーの水森亜土さんへのインタビューは始まった。
 ちょうど劇団未来劇場の『シャンテ・ラ・レヴュー PART13』の昼と夜の公演の合間で、出演者・スタッフ総勢20人以上が、やはり客席で仕出しのお弁当と、亜土さんの手作りというサラダやおかずを分けあいながら、和気あいあいと食事している真っ最中だった。
水森
 わたし、このひとの絵本、大好きなの。あの絵本作家さんは、いろんな本画いてるでしょ。ほら、ニューヨークへ行ったり、パリへ行ったりするあのシリーズ、ええと……
水森
そう。わたし、あれが大好きで、何冊も持ってるの。そこに行ったことがなくても行った気にさせてくれるから。あのマックスっていう犬のシリーズもいいんだけど、こんどの消防艇の絵本読んで、すごく感激しちゃった。あんな悲惨な話を、こんなに美しくまとめるっていうのは、もう涙、涙。
それに今回はとくに、すごい色がきれいで、もうすごいスケッチしてあって、ほんとに感動しました。すゃばらしいわ(笑)。
水森
わたしだったら、もし頼まれたとしてもやっぱり画けない、こわくて。それを堂々と絵にしてるから、偉大な人だなあと。わたしはこわくてだめ。
水森
たとえば、飛行機がビルにぶつかろうとしている絵が、なにげない童話みたいに画いてあるでしょ。こわいですよ、そのつぎのページをあけたときは。ドキドキする。いままでで、いちばんこわい事件じゃないかなあ。
それを絵本にしたっていうのがえらいですよ。
それとね、矢野顕子さんの翻訳も、とてもよかった。
水森
わたしは自分ではテレビに出てるけど、絵本で 育ったの。冒険ものが好きで、『トム・ソーヤの冒険』とか『ジャックと豆の木』とか『宝島』、ああいうのが大好きで。それと『イソップ物語』も、アンデルセンのお話も、けっこうこわいですよね。『白雪姫』もこわいし、グリム童話も。でも、絵本がふわっと包んでくれるから、子どもながらに大人の世界はこわいかなと、おどおどしながら読んだんです。
水森
うん。わたしは字を読むのがとっても弱いの。国語の時間と、理科、社会がぜんぜんダメだったんです。字だけ書いてあると、斜めに見ちゃうから。絵本なら、絵を半分見ながらお話を読めるでしょ。
お芝居の台本も、ジャズも、せりふや歌詞を覚えるのに、絵を描くんですよ。きょう舞台でうたった歌も、みんな絵にして覚えたの。絵がないと、生きていけないの。テレビはいらない(笑)。
子どもの情操教育っていうのかな、感じやすいときに絵本があったんで、親に感謝してるんです。
水森
わたしは毎年、ニューオリンズのジャズ・ヘリテージ・フェスティバルへ行くんです、あっちのほうが好きで。
ニューヨークは東京と同じで、すごくよく変わります。レストランとかでも、去年行ったところに行くと、もうなかったりね。東京と違うのは、ニューヨークでタクシーに乗ると、運転手さんがじつに愉快で、みんな誇りを持ってやってるところね。よく三代住み続けないと江戸っ子じゃないっていうけど、東京にそんな人は少ないでしょ。ニューヨークっ子といったってそんなに長く住んでる人は少ないと思う。それでも「オレはニューヨークっ子だ」と言っていばってる。
東京の人も、自分の街にもっと誇りを持ってほしいわね。

 インタビューは15分間という約束だったが、客席ではみんながわいわい食事をしながら大歓声をあげたり、誰かの誕生日だったらしく「ハッピーバースデイ」の合唱が起こったりするので、ときどき中断が入りながらの、たいへんにぎやかなひとときだった。
 とにかくマイラ・カルマンの絵本が大好きだという亜土さんから、『しょうぼうていハーヴィ ニューヨークをまもる』に最大の讃辞をいただけて、うれしかった。


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作者:マイラ・カルマン ニューヨーク在住の画家、イラストレーター。絵本作品も多数あり、最近では“What Pete Ate from A−Z”や“Smartypants(Pete in School)”などがある。また、人気ブランド《ケイト・スペード》とのコラボレーションも評判を呼んでいる。

訳者:矢野顕子 シンガー・ソングライター&ピアニスト。1955年東京生まれ。幼少時からピアノを始め、高校在学中よりジャズクラブ等で演奏、 76年、アルバム「JAPANESE GIRL」でソロデビュー。81年、シングル「春咲小紅」が大ヒット。以後も、普遍的な「愛」をテーマに、ジャンルにとらわれない音楽活動を続け、高い評価を得ている。90年、一家でニューヨーク州へ移住。2001年9月11日には、自宅の窓から炎と黒煙を吐くツインタワービルを目撃した。2004年10月、「ホントのきもち」をリリース。